サンプル
登場人物。
深月(みつき) →佐藤・隆起部活のマネージャー。隆起の彼女。
佐藤先輩 →深月にこっそり恋心を寄せる部活の先輩。
顔が広いから何でも持ってます(笑)
隆起(りゅうき)→深月の彼氏。佐藤・深月と同じ部活。
冬花火
「隆くん。今日S神社で花火大会有るって知ってる?」
「知らない。」
「行きたいなぁー」
「時間無いだろだろ。諦めろよ。」
そう言われたのが今年の夏の終り。
今年最後の花火大会の日だった。
「やっぱりさぁ。あの花火凄かったよねぇ〜。」
「凄かった―。最後の本当に綺麗だったよね。」
友達の言葉を右から左に聞き流しながら深月は携帯を開いた。
帰る準備は終ったけど一緒に帰る約束をしてる隆起はまだ来ない。
暇潰しにスケジュールを遡ってみると8月の終りに『花火大会』と言う単語を見付けた。
すぐ近くでやるから行こうと思ってたのに。
それが運悪く委員会の仕事と重なって行けなくなったのを思い出して深月は顔をしかめた。
開かれる気配のない戸の向こうは慌ただしく足音が聞こえてまだ他の部活は頑張ってるんだろうなって思ってイヤになった。
「暇ぁ〜・・・」
いつまでたっても開かない戸を見ているのも飽きて机に頭を伏せて呟く。
目の前に誰かが持ってきたお菓子が見えたけど食べる気にはならなかった。
携帯を開いてスケジュールを見れば自然に8月まで戻してしまう自分の指を恨めしく睨む。
「何してんだよ?深月待っててくれたの?」
「佐藤先輩待ってたわけじゃないですよ。」
自分でも酷いかなと思う言葉を佐藤先輩は冷たーいと笑い飛ばした。
それが気に入らなくて深月は手に取ったお菓子を投げる。
子供みたいだと思った。
「深月何見てんの?メール?」
「違いますー。スケジュールですー。」
ふーんと言って佐藤は深月の携帯をとった。
画面は未だに8月のままだったけど取り返すことはやめた。
「・・・深月花火大会行きたかった?」
「・・・はい。」
ごまかす必要も無いだろうと肯定する。
佐藤は深月の言葉ににやぁ・・・と嫌な笑顔を浮かべた。
「今からバイトとか?」
「今日はないです。」
「よしっ来いっ」
「はっ?」
佐藤が深月の鞄を持って立ち上がる。
いつまでも座ったままの深月の手を引いて部室から飛び出た。
「帰るんすか?深月も。」
「隆起後部活頼む」
「ちょっと!深月今日隆くんと帰るんだからっ!!」
「あぁー佐藤先輩と用あんなら今度で良いよ。」
「隆くんっ!!」
遠回しに助けを求めたが隆起はあっさりと言い放つ。
隆起の言葉に佐藤は気持悪い笑顔を作って手を振った。
「さっむー!!」
深月連れてこられたのは海だった。
その前に佐藤の家に寄ってきた。
準備があるからと言い深月を残して佐藤は先に走っていった。
「準備ってなんなの・・・」
深月はすることすら教えて貰えなかった。
ちょっとイライラしてきた時に佐藤の声が聞こえてきて気が抜ける。
少し近寄ると手でストップと言われて立ち止まる。
佐藤は深月が止まったのを確認するとしゃがんで何かを始めた。
気になって近寄ろうとした時。真っ暗な空に季節外れの花が咲いた。
「・・・花火・・・?」
「もう一発行くぞ。」
佐藤の声と共にさっきと違う色の花が咲いた。
「どう?深月。気にった?」
知り合いが余ったからってくれたんだ・・・と話す佐藤の側に走りよる。
佐藤はどうした?と言う感じで深月の事を見てきた。
「深月も花火飛ばすからっ佐藤先輩見てて下さいっ」
日本語がオカシイぞと笑いながらも佐藤は深月から少し離れていく。
「行きますよっ」
季節外れなそれでも軽快な音と共に赤い花が咲いた。
「きれーだよー」
目を更に細めて言う佐藤を見ながら深月は手招きする。
今度は一緒に咲かせようって意味を込めて。
佐藤と共に咲かせた『花』は今までの中で一番大きな花だった。
「昨日なんだったの?佐藤先輩と。」
部活の休憩時間に隆起が深月にたずねた。
一応恋人という立場だからだろう。
「花火大会。行って来た。」
「・・・嘘だろ。」
視線を合わそうとしない隆起を見ずに深月は答える。
「深月佐藤先輩好きになっちゃうかも。」
「は?お前何?マジで?」
驚いたような声を聞かせる隆起に気付かれないように声を殺して深月は笑った。
そう言って深月斜め後ろを見る。
目の合った佐藤は優しく笑ってくれた。